In other words

I really don't know life at all ...

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「お菓子はかすがい」。甘くて美味しいお菓子は怒りをも溶かす。

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歳をとると夫婦喧嘩というものが少なくなる。まったく喧嘩をしないわけではないけれど、若い頃に比べればお互いにずっと辛抱強く(諦めともいえる?)なるせいか、少しくらいのことは知らんふりができるようになるのだ。

それでもたまに耐えかねて喧嘩になることがある。
子供の頃から自分を守るために、いかなることも正当化するのが当たり前と育った外国人をパートナーとしているせいか、一度喧嘩になるとかなりすごいバトルが繰り広げられる。
諦めているとはいえ、こちらも奥ゆかしい性格ではない。そんな相手の態度が許せないと思うと、とことん攻撃をしてギャフンと言わせないと気が済まない。

さすがにお互い手を出したりはしないけれど、子供達が仲裁に入るほどの激しい言い合いになったりすることもある。

お互いに一歩も引くことがないから、結局決着はつかず、いつも険悪な雰囲気のまま、朝を迎えることになる。

そんな朝、私は大人気なくも「おはよう」の挨拶すらせず無視をする。そうそう簡単に怒りは消えないのだ。
そして、夫も何も言わずに仕事に出かけていく。

別に1ヶ月や2ヶ月、口をきかなくても私は困ることはない。
むしろ、夫を気遣うことなく無視しているほうが、生活自体は楽なくらいなのだ。

しかし、夫の方は不都合があるらしい。
外国人であるが故に、あらゆるところで面倒があると、手っ取り早く私に横流しし、肩代わりしてもらってきた人生だ。どんな些細なことでも問題解決に動くことが面倒なのだろう。

夫の心のうちはわからないけれど、想像するに、このまま私の機嫌を損ねたままだと、自分に不利益があると思うのかもしれない。
仕事から戻ると昨夜の喧嘩などまるでなかったように、普通に世間話をしてくるのだ。

しかし、私はそう簡単には割り切ることができない。言われたことは忘れない執念深い性格なのだ。
たとえ何十年経っても忘れない。忘れた振りをしているだけで、心ない言葉の数々はしっかりと、いつでも容易に取り出せるところにしまってある。

丸々一日、夫に対しては一言も言葉を発しないまま、私はさっさと床につく。





翌朝、「行ってきまーす!」と、わざとらしいくらいに明るい声を上げながら仕事へ行く夫を無視して、私は朝ドラの画面を見つめたままホッと息を漏らす。

人と争うのは大きなエネルギーを必要とするものだ。たとえ無視しているだけでもネガティブな思考は精神を消耗させる。

さすがにこの頃になると、疲労も手伝ってか、正直喧嘩をした時の煮えたぎったような怒りは消えている。
どちらかといえば、氷のように冷え冷えとした感情に心が固まってしまっている状態だ。

とはいえ、夫が不在の間はそんなことに思い悩むことはない。正直言って一人でいる時は一人時間を楽しんでいる。

夫のことなど考える時間さえもったいない。。。

そんな中、メールがいくつか入ってくる。

英文のありきたりな言葉の羅列。

How are you feeling ?

Enjoy your day !

Please rest ,don't worry about the house work

などなど、ご機嫌伺いのようなメールをよこす。

返信するのも面倒だ。というか、まだ例の喧嘩の決着はついていない。
何もなかったかのような態度が余計に腹立たしいから返信はもちろんしない。

そして、夜になり夫が仕事から帰ってくる。その手には紙袋が提げられられている。

それを見た途端、苦々しい気持ちになる。
この喧嘩もまた、有耶無耶なまま幕を閉じるのだと。。。

なぜかといえば、その中には必ず甘くて美味しいお菓子が入っているからだ。

「そんなものいらないわよ!」

そう無視できたらどんなにスッキリするだろう。。。そう思いながらも、私は小さな声で「Thank you .....」と、お菓子の包みを受け取ってしまうのだ。

そして、その甘いお菓子をひと口食べると、まるで砂糖が溶けるように、怒りも優しく溶けて消えていく。

不思議だ。なぜ甘くて美味しいお菓子を食べると、すべてがどうでもよくなってしまうのか。

私としては複雑な理由をつけたいところだけれど、きっと夫の方は「単純なやつだな」と裏でほくそ笑んでいるだろう。

しかし、それさえどうでもいいと思うほど、お菓子は美味しい。





今では娘までもが同じことをする。
ちょっとしたことで口論になったり、こちらがお説教をしたりなど、私の機嫌が直らないと、必ずお菓子を抱えて帰ってくるのだ。

しかし、娘はまだ可愛い。

「これ、お詫びの貢物です」

そんなふうに、きちんと自分の非を認め、謝罪とともに差し出してくるからだ。

夫の場合は違う。謝罪はなく、ただ「どうぞ」とお菓子を渡してくるだけだ。

私がそれを無視できないことを知っての確信犯。そして、それを食べてしまう私も、結果的に夫を許すことになる。

なんという節操のなさかと、自分でちょっと情けなくなるのだけれど、美味しい誘惑には完敗だ。
これくらいのことで、美味しいものを食べる機会を逃すのも馬鹿げているとさえ思う。

こんな風に私たちの夫婦喧嘩は幕を下ろす。

「子は鎹(かすがい)」ということわざがあるけれど、我が家の場合は「甘いお菓子がかすがい」になっているようだ。

辛抱のきかない外国人同士、20年以上も共に暮らしてこられたのは、もしかしたら甘くて美味しいお菓子のおかげかもしれない。。。