
我が家近隣にはいくつかコンビニがあるのだけれど、その一軒は要注意店として家族内で情報共有されている。
昨今、コンビニといえば外国人店員を見ない店はないというくらい、彼らの独断バイト・パートの場となっている。
件の店も然りで、いつもレジに立っているのはほぼ外国人だ。
日本語が通じないとか、接客業態度が悪いとか、怠慢であるとか、苦言を耳にする機会も多いもので、私も幾多のコンビニで少なからず面倒な思いをした経験がある。しかしほとんどの場合はスルーすることにしている。
歳を重ねたことで、私の異常に低かった沸点も今ではエベレスト並みに高くなったせいだろう。最近では滅多なことでは怒らなくなった。
店員の態度が悪い程度のことなら、じっと凝視をして無言の圧をかける程度で負の感情を追い払うことにしている。
外国人だから仕方ないと許容するのとは違う。郷にいれば郷に従えという気持ちはもちろんある。しかしそれと同時に異国の地で働くという苦労もまたわかるのだ。
異国の地で暮らしたことのある人なら、少なからずそんな気持ちになることもあるだろう。
しかし件の要注意店はその点において、一度たりとも不快な思いをしたことはない。
接客態度はすこぶるよく、日本語も流暢、袋詰めも完璧。嫌な思いをするどころか、率先してそのお店を使いたいと思わせるくらいなのだ。
では、何が要注意なのか…
それは謎にセールスが上手い点なのだ。
買うはずではなかったものまで買ってしまう不思議な呪文をまるで秘技とばかりに乱用し、気づけば普段なら買わないようなものを手にしている。。。
しかも、それがすべてレジにあるホットスナック対象というのも、脂肪肝を抱えている身としては辛い。
私が初めてその呪文にかかったのはたこ焼きだった。
ペットボルトのお茶だけを持ってレジに行ったところ、「袋いりますか?」「支払いはPayPayですね」などの合間に、
「たこ焼き美味しいよ」
「できたてですよ」
「アツアツで美味しいよ」
まるでサブミナル効果を狙ったかのように、低く優しい声で潜在意識に働きかけてくるのだ。
そして気づけば、まるで催眠術にでもかかったように「では、一つください」と口をついて出ていたのだった。
無理強いされたわけではない、ただ呟くように、畳みかけるように、「美味しいよ」「できたてだよ」とおすすめされると、なぜかそれがとても美味しそうに見えて、買いたくなってしまうのだ。
たこ焼きは店員さんの言っていた通り、アツアツの出来立て、とても美味しかったので、損をしたとは思わなかった。
しかし、買うつもりのなかったものだ。まんまとしてやられたという気持ちが少なからず湧いたのは事実だ。
そのホットスナックの呪文はその日だけではなく、そのあとも続いた。。。
先日はアメリカンドッグであった。
ホットスナックなど買うつもりはなかったのに。
またしても。
「アメリカンドッグ美味しいよ」
「揚げたてでアツアツだよ」
「今日は30円引きでお得だよ」
またしても呪文を唱えられ、「それなら一本ください」と言ってしまった。
もしかしたら、呪文にかかりやすい客として認識されているのではないだろうか?
あの客は洗脳されやすい、しかもいかにも食べることが好きそうだ…
そんな風に思われているのかもしれない。
つまり私はよいカモなのである。つい最近まではそう思っていた。
しかし先日のこと、長女が唐揚げ棒を2本買ってきた。
体型管理に厳しい長女は揚げ物など滅多に食べることはない。
家でたまに食卓に出たものを食べることはあるけれど、揚げ物自体我が家はほとんど作らないのだ。
それがわざわざコンビニで買ってくるとは、一体どうしたことかと尋ねてみると、「店員さんが美味しいよってすすめるものだから…」
そう言うではないか!
「もしかして、あそこのコンビニ?」
「そう」
「あのインド人の店員?」
「そうそう!なんでわかるの⁉︎」
「私も何度も体験してるから」
これまでのことを説明すると、長女もまったく同意見であった。
「買うつもりなんてないのに、あの呟きを聞くと、なんか買っちゃうのよね!」
さらには次女まで「揚げたてっておすすめされたから、カレーパンを買ってきたよ」と、いくつも提げて帰ってきたときには確信した。
呪文にかかってしまうのは私だけではなく、あの呟きを聞いた全ての人が、買うつもりのなかったホットスナックを手にしてしまうことを。
次々と売れてしまうから、行くたびに揚げたてがあるのだろう。
キッチンが油で汚れるのが嫌で、普段揚げ物はほとんどしないのだれど、決して嫌いなわけではない。
しかも揚げたての揚げ物は美味しいものだ。
実際に「またしても、買わされてしまった」と思うものの、いつもなかなか美味しいなと完食してしまっているのだ。
コンビニで揚げたてを買っていただくのもたまにはいいものだと、そんなことすら思ってしまう。
これもまた呪文のせいなのだろうか。。。
よくわからないことがあると、ついつい追求してみたくなる。
あのインド人店員はただのセールス上手なのか、はたまた本当に呪文による洗脳なのか、もしくはたまたま私の食欲にコミットされたのか。。。
要注意店ではあるけれど、それが確かめてみたくて私は今後も足を運ぶことだろう。
そしてそのたびになにかしらのホットスナックを買って帰ることになると思う。
世の中、科学では解明できない不思議なことは多々あるものだ。この「コンビニでお買い物」という日常当たり前のことにも不思議なことが潜んでいる。
訳のわからぬまま、ホットスナックばかり食べ、どんどん脂肪肝を増大させていくことを想像すると、夏の怪談話と同じくらい怖い。
やはりあのコンビニは要注意だ。
ところで、インド人、インド人と書いているけれど、本当のところインド人がどうかは不明だ。バングラデシュやパキスタンあたりかもしれない。
見た目では区別がつかないので、適当だなぁと思いながらもイメージ的に一番しっくりくるインド人とした。