映画音楽の世界的巨匠、Ennio Morricone エンニオ・モリコーネ氏が昨日亡くなられたというニュースを見た。91歳だった。
数多くの映画音楽を生み出してきたイタリアの作曲家で、有名なところでは日本でも大ヒットした『ニュー・シネマ・パラダイス』と言えば、ピンとくる人もいるだろう。
作品名をあげたらキリがないほど多くの映画音楽を手がけてきた方なので、興味のある方は是非検索してみてほしい。
きっと名前は知らずとも、ほんとんどの人が一度は彼の音楽を耳にしたことがあるはずだ。
一昨年くらいだろうか「引退」というニュースも流れていたので、もうお歳だし。。。と思っていたのだけれど。
亡くなられたと知って、ちょっとばかり感傷的になってしまった。
私にとってモリコーネの音楽は、これまでも人生の辛い場面では必ず共にあった音楽だったような気がする。。。
追悼というわけではないけれど、昨夜は久しぶりに古いCDを聴いた。
私が「究極のヒーリング音楽」と長年大切にしているCDだ。
これは世界的なチェリスト、YO-YO MA (ヨーヨー・マ)とのコラボCDで、これが発売されたとき、私は南半球の田舎町で暮らしていたため、入手するのにとても時間と手間がかかったのを覚えている。
どんなに大変でも、待っても、どうしても手に入れたいCDだった。なんといっても大好きな天才音楽家2人がタッグを組んだCDだ。世界のどこにいようとも、必要なものだったのだ。
それだけに思い入れも強く、今でも大切にしている。
そして、それを聴くたびに昔々のことを思い出すのだ。
辛いこと、嫌なこと、心を暗くするようなことは日々当たり前のように起こる。
それでも私達は自分なりのやり方で、そんな嫌なこととうまく付き合おうとしたり、追いやろうとしたり、消化しようとしたり、もがきながら生きている。
人に頼ることができる人もいれば、自分だけで落とし前をつけようとする人もいる。
時にそんな現実と向き合い、戦う気力をなくしてしまう人もいる。
私もそうだ。50年以上も生きていれば、当然色々なことがあった。いいこともたくさんあったけれど、辛いこともたくさん経験した。
何もかも投げ出して逃げ出したいと思うこともあったけれど、そんな時に弱気になった心や、黒く凝り固まった心をほどいてくれたのがモリコーネの音楽だった。
モリコーネの音楽は、無条件に人を包み込むような包容力と美しさを持っている。
心の中に溜まった真っ黒な澱を根こそぎ洗い流してくれるような清浄なパワーとでもいうのか、魂が無色透明になるまで洗われるような気持ちにさせてくれる。
とりわけ海外で暮らしていたころは、理不尽な出来事に見舞われるようなことは日常茶飯事で、そんな現実に負けたくないという気持ちと、逃げ出したいという気持ちの狭間で、いつも気持ちが不安定だった。
無意味な戦いをしていると分かっているのに、そこから降りられない自分の頑固さ。
若かったせいで、逃げることも勝つことの一つの方法であると受け入れられなかった。
そのせいで、自分に鞭打つように生きていた。
今の若い人は想像できないだろうけれど、昭和の人間はそんな愚かなことを美徳とするところがある。
いま思えば、なぜあそこまで頑なだったのだろうと、当時の自分に同情すらする。
絶対に負けたくはない。
そんな風にいつも気持ちをピンと張り詰めて生きていたら、知らず知らずのうちに心が消耗する。
わかっていても、それをやめることができない。
そんな時、人は無意識のうちに自分を救ってくれるものを探すのかも知れない。
頑なな気持ちをそっとほどいてくれる薬のようなものを。
私にとってのそれがモリコーネの音楽だったのだ。
疲れた。。。と、溜息が漏れるような時は、必ず彼の音楽を飽きるまで何度も流し続けた。
そうするうちに、気持ちが着地点を見つけ、落ち着きを取り戻す。
怒りや悲しみでささくれだった心が、徐々に洗い流されて、ニュートラルな自分を取り戻すのだ。
今は若いときのように、思い煩うようなことはあまりなくなったから、あんな風にモリコーネを聴くことはなくなったけれど、今でもちょっと疲れたりすると「免疫アップ!」などといいながら、『Gabriel's Oboe』なんかを流す。
Yo-Yo Ma plays Ennio Morricone # The Mission - Gabriel's Oboe
何十年経とうが色褪せることはない。
それどころか歳を追って聴くと、さらにその美しさに感動する。
私は特別音楽に詳しいわけでもなければ、ましてや自分で演奏することもない。
ついでに言えば、カラオケなども好きではないから行かない(笑)
音楽に対する知識がなくても、その音楽が自分にどう響くか、どんな影響をあたえるかはわかる。
楽しくなるような気持ちを盛り上げる音楽、モリコーネのようにある種のヒーリングになる音楽など。。。
音楽は美しければいい。
自分の耳に心に美しく響けばそれでいい。
モリコーネは亡くなってしまったけれど、私は一生彼の音楽に癒され、励まされながら生きていくのだと思う。
私を含め多くの人の魂を慰め、救ってくれた遠い国の天才、モリコーネ氏のご冥福をお祈りするとともに、
Grazie Mille !
たくさんの感謝を。。。